日本霊長類学会

学会概要

 日本の霊長類学は、初めて宮崎県幸島でニホンザルの調査が行われた1948年12月3日をもって始まったとされています。その後、対象種はアジア、アフリカ、中南米などの様々な地域に生息する多様な非ヒト霊長類に広がりました。一方で、専門領域も形態、系統、生態、社会、行動、心理、生理、遺伝、神経、実験動物、保全・福祉など様々な分野に及び、霊長類学は多様な領域からなる総合学として発展してきました。 1985年7月20日、異分野の相互理解を進め、幅広い視野に立った霊長類研究者を育成することや、研究者集団としての組織的活動を行うことを目的に、日本霊長類学会が設立されました(「日本霊長類学会設立の趣旨」参照)。 2020年7月には一般社団法人となり、日本霊長類学会は公的学術団体として、霊長類に関する広範な研究及び教育を一層推進するとともに、霊長類の保全並びに福祉の向上に努め、我が国における霊長類学の発展に努めています。  
 
 霊長類学は目レベルの分類群を対象としているわけですが、同じ分類階層レベルで~~学として認知されている分類群はあまりないのではと思います。学会には霊長類学が学問の一領域として社会の中で認知される旗印としての意義もあると思います。科研費制度の中においても、霊長類は自然人類学関連という小区分のなかに「内容の例」として明記されています。世界的にみても、国際霊長類学会(International Primatological Society: IPS)という大規模学会が活発に活動しており、つい最近でもScience誌がPrimate Genomeという大きな特集を組んでいます。 これは霊長類学が多くの先人の努力により学術分野としてしっかりと根付き、確立されてきたことを表していると思います。  
 
 本学会は、毎年学術大会を催す他、機関誌として『霊長類研究』を発行し、国際学術誌の "Primates"を準機関誌として位置づけ、国内外の霊長類学の成果を広く発信しています。 また、それらを通して分野間の情報交換や交流を活発に行っています。その結果、ゲノム科学や心理学に足場を置きながら野外に出かけ生態学的研究を行ったり、生態学に足場を置きながら、実験室で遺伝学的な解析を行ったりなど、学際研究も盛んに行われるようになりました。 また、学術奨励賞である高島賞国際学術研究助成ならびに各種研究奨励事業を設けるなど、若手研究者への支援活動の推進を積極的に行っています。 さらなる次世代を発掘・育成すべく、学会大会時に、中高校生の皆さんに発表の機会を提供し、顕彰する のみならず、小学校や中学校、高等学校での 出張授業 も行っています。 そして、ニホンザルの保全の現場でご活躍の方々、あるいは動物園関係者の方々にも活用していただける 保全・福祉活動助成 も行っています。

 対外的には、本学会はIPSの連携学会のひとつとして、1990年には名古屋と京都で、また2010年には京都で国際霊長類学会大会を主催し、1996~2000年および2008~2016年まで合計3名の本学会員がIPS会長を務め、本学会の国際的ネットワークを広げるよう努めています。 さらに、これまで本学会独自に、あるいは他学会とも連携して、霊長類の保全ならびに飼育実験倫理の向上、実験動物としての適切な供給を求める要望書等 を幾度となく国や地方自治体に提出してきました。

 しかし一方で、会員数の減少や研究ポストの少なさ、京都大学霊長類研究所という共同研究の一大拠点の喪失など、様々な困難にも直面しています。そういった危機感から行なわれた会員アンケートやそれを受けた2022年度大会時の自由集会をみると、会員の皆様の霊長類学への思い入れの深さと霊長類学会をよくしようという関心の高さは私には嬉しい驚きでした。 2023年7月に立ち上がった新理事会メンバーは年齢層が広く、全体としてかなり若返りました。もともとこの学会はジェンダーバランスがかなりよいと思いますが、一層よくなりました。また所属機関もかなりばらけてきたと思います。 理事の研究分野は会員構成を反映して一見生態系が多いですが、研究テーマは多様で異分野融合的な内容に渡っています。これから理事会の皆さんと様々な会務に取り組んでいくことになりますが、もとより理事会も代議員もボランティアであり、やれることには時間にも労力にもアイディアにも限りがあります。 会員の皆様からのご協力にも期待しています。総合霊長類学の一層の発展のためには、多くの拠点の形成とそのネットワーク化も重要です。さらに、霊長類学だけにとどまらず、学術全体を盛り上げることも、霊長類学の維持発展に重要です。長期的には関連他学会との一層の連携や連合大会開催の頻度を上げていくことも視野に入れていく必要があると思っています。  
 
 霊長類に関心を持つ若手研究者、中学校、高等学校の先生方、保全や動物福祉の現場でご活躍の皆様、動物園関係者の皆様のみならず、中堅以上の研究者の皆様の新規参入をいつでも歓迎いたしております。 入会は、 入会方法のページをご覧ください。  
 
2023年8月1日
日本霊長類学会会長
河村正二

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