【イベント】共創的コミュニケーションの進化を考える(2021/6/11 開催)
第14回共創言語進化セミナー
タイトル: 共創的コミュニケーションの進化を考える
講演者: 山極壽一氏 (人間文化研究機構総合地球環境学研究所 所長)
言語 : 日本語
日時 : 2021/6/11 (金) 18:00-19:30 JST (少し延びる可能性あり、いつもと開始時刻が異なります)
申込サイト:
https://forms.gle/ANTMgcRVdsTHA61X9
(登録後すぐにZoom情報を記したメールが届きます。お見落としがないようメールをご確認下さい。)
概要 :
現代の人間にとってことばは考える道具であり、創造性の源である。しかし、その進化の歴史を遡ると、やはりことばはコミュニケーションの一つとして生まれ、発達してきたと考えざるを得ない。それは、ことばがコミュニケーションとしては実に不完全な道具だからである。ことばは一語でも2語でも相手に通じるし、逆にいくらことばを尽くしても相手に伝わらなかったり、誤解されることが多々ある。人間は他の霊長類と同じく視覚優位の動物である。百聞は一見に如かずというように、見たことが真実であり、それ以外の感覚は視覚を補うか、視覚による確認を促す役割を与えられている。だから、ことばのそもそもの役割は対面で行われていた社会的文脈を構造化し、時空間の広がりをもたせて、複雑さの増加に適応することだったのではないかと思えてくる。であれば、現在の言語に関する脳の機能やその遺伝的仕組みを調べるとともに、人類の社会的文脈と認知能力がどのような背景で、いかなる進化を遂げてきたのかについて検討することが不可欠になる。道具の進化はその大きな切り口になるだろう。しかし、人類に系統的に近い霊長類の社会的文脈と認知能力、それを支える生理的特徴を総合的に分析することも重要である。なぜなら、人類の脳容量は集団規模の増加に対応して増大したと考えられているからである。集団規模の増大は人類にいかなる利益をもたらし、いかなる問題を生んだのか。そこには、霊長類の食と性の特徴が基調となっている。人類の祖先は他の霊長類、とりわけ人類に近い類人猿が経験していない生息域に足を延ばすことによって、身体や生理の特徴を大きく変えた。食生活の変化による消化器の縮小、生活史の変化による成長遅滞や離乳期、思春期の登場といった特徴である。社会編成の変化はそれらの変化と強く関連付けられており、新しい環境で人類の生存を支えるものだったはずである。複数の家族を含む共同体はその結果としてできた。個体の自由な動きを容認しながら大きな集団をまとめるには、シンボルを使った全体論的なコミュニケーションが必要になる。つまり、社会的文脈をいくつも作り、それを全体的にまとめ上げて解釈する必要性が生じる。そのとりあえずの道具がことばであった。ことばはコミュニケーションとしては万能ではない。そして今、ことばに代わるシンボルを使ったコミュニケーションが登場し、人々を混乱に陥れている。その新たな情報社会の危機を乗り越えるためには、ことばのもつ原初的役割とそれが発達した背景、そしてそのコミュニケーションとしての限界を理解しなければならないと思う。
参考文献:
- Yamagiwa J, Shimooka Y, Sprague DS (2014) Life history tactics in monkey and apes : focus on female-dispersal species. In : Yamagiwa J & Karczmarski L (eds), Primate and Cetacean : field research and conservation of complex mammalian societies, Springer, Tokyo, pp. 173-206.
- Yamagiwa J, 2018. Evolution of community and humanity from primatological viewpoints. In : Stomu Yamash’ta, Tadashi Yagi, Stephen Hill (eds), The Kyoto Manifesto for Global Economics : The Platform of Community, Humanity, and Spirituality, Springer Nature, Singapore, pp. 329-357.
- ロビン・ダンバー著『人類進化の謎を解き明かす』(2016)インターシフト
- 野間秀樹著『言語存在論』(2018)東京大学出版会
- ダニエル・エヴァレット著『言語の起源』(2020)白揚社
山極寿一氏について:
京都大学理学部卒、理学博士。京都大学理学研究科教授を経て、2020年9月まで京都大学総長を務める。国際霊長類学会会長、国立大学協会会長、日本学術会議会長、内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員を歴任。2021年4月より現職。アフリカ各地でゴリラの行動や生態をもとに初期人類の生活を復元し、人類に特有な社会特徴の由来を探っている。著書に『暴力はどこからきたか』(NHKブックス)、『人類進化論』(裳華房)、『家族進化論』(東京大学出版会)『スマホを捨てたい子どもたち』(ポプラ新書)など。