日本霊長類学会

富津市へ「高宕山自然動物園における飼育展示施設の再建に関する要望書」を提出しました

高宕山自然動物園の柵型檻が2019年の台風15号などの影響で倒壊した結果、飼育ニホンザルが周辺地域と行き来できる状態となっていることに対し、日本霊長類学会は飼育展示施設の再建に関する要望書を富津市に提出いたしました。加えて、飼育個体や 飼育施設の管理に関する技術の提供や、外来種の問題についても協力していきたいことをお伝えしました。


富津市・小泉義行副市長(右)に要望書を提出する日本霊長類学会・中川尚史会長(左)


令和2年1月14日

千葉県富津市長
高橋 恭市 殿

日本霊長類学会
会長 中川 尚史


高宕山自然動物園における飼育展示施設の再建に関する要望書


 令和元年9月から10月に襲来した台風により、富津市を含む東日本各地で甚大な被害が発生いたしました。被災された皆様に心よりお見舞い申し上げますとともに、1日も早い復興をお祈り申し上げます。また、被災地の復興に向けてたゆまぬ努力を続けられているすべての方々に、心から敬意を表します。

 日本霊長類学会は、霊長類の研究、および保全・福祉に関する活動に取り組む学術研究団体です(https://primate-society.com)。飼育下の霊長類については、飼育管理の指針を作成するなど、その福祉向上に向けた取り組みを行ってまいりました。また、本学会は、千葉県に生息する外来種アカゲザルの問題についても高い関心を注いでまいりました。その中で、平成19年1月には、「千葉県に生息するアカゲザル等の防除に関する要望」を、平成25年2月には、「千葉県に生息する外来種アカゲザルとニホンザルの交雑防止に関する要望」を、千葉県ならびに環境省に提出した経緯がございます。
 ところで、このたびの台風15号により、高宕山自然動物園の柵型檻が倒壊し、飼育個体が周辺地域と行き来できる状態となっております。高宕山自然動物園は、日本固有種であるニホンザルの飼育展示のみならず、外来種であるアカゲザルからニホンザルを隔離し、保護するための域外保全施設としても重要な役割をもつと考えられます(注1)。本学会は、飼育個体の逸走および野生個体との交雑を防止するためにも、飼育個体が一刻も早く捕獲、収容され、高宕山自然動物園がニホンザルの飼育展示施設として再開されることを期待しております。
 富津市におかれましては、仮設檻の設置や有識者との現地検討会など、すでにご尽力いただいているところでございますが、本学会は貴市に対し以下のことを要望いたします。

(注1)「域外保全」とは、本来の生息地で存続が危惧される種、あるいは個体群を、安全な施設等において保護・増殖を図り、絶滅を回避する方法です。ニホンザルは、同種でも地域によって遺伝的特性や生態的特性が異なります。アカゲザルとの交雑によりニホンザル房総地域個体群の絶滅が危惧されることから、高宕山自然動物園のニホンザル個体を飼育管理することは、房総地域個体群の保全に大いに貢献することが期待されます。

要望事項
1. 仮設檻の設置に引き続き、長期飼育にふさわしい施設を建設すること。また、その構造物は、飼育個体の逸走を防止するとともに、野生個体の施設外からの侵入や野生個体との交配を防止するものであること。さらに、飼育展示施設は、飼育個体の健康と安全が確保されており、ニホンザル本来の行動や能力が発揮できるようにするなど、動物福祉に配慮されたものであること。
2. 飼育個体に関する個体識別管理および健康管理の方法を確立し、実行すること。また、来園者等に対し、科学的知見に基づいたニホンザルに関する解説を充実させること。とくに、外来種との交雑や農作物被害など、ニホンザルの保全および管理に関する問題の啓発に努めること。

 なお、日本霊長類学会は、飼育施設に対する助言、飼育個体管理に関する手法および技術の提供、および講師の派遣等について、協力を惜しまないことを表明いたします。

以上



要望書PDF

ページのトップへ戻る