市民公開講座 「暴力の起源とその解決法」

文部科学省科学研究費補助金(研究成果公開促進費)補助事業
第23回国際霊長類学会大会(第26回日本霊長類学会大会)

開催概要

日時:2010年9月18日(土) 13:30-17:30
場所:京都大学 百周年時計台記念館 百周年記念ホール
会場アクセスはこちら
主催:日本霊長類学会、第23回国際霊長類学会運営委員会、日本学術会議
後援:京都大学、京都府教育委員会、京都市教育委員会

13:30-13:40 挨拶 江崎信芳(京都大学副学長)
13:40-14:00 趣旨説明 山極寿一(国際霊長類学会会長)
14:00-15:00 基調講演「チンパンジーと人間の戦争の起源」
Richard Wrangham(Harvard大学教授)
15:20-15:50 講演「狩猟採集民社会と暴力」
市川光雄(京都大学名誉教授)
15:50-16:20 講演「宗教と暴力」
小原克博(同志社大学教授)
16:30-17:30 総合討論
梶田真章(法然院貫主)
黒田末寿(滋賀県立大学教授)
小長谷有紀(国立民族学博物館教授)
長谷川寿一(東京大学教授)

入場無料
同時通訳あり(先着300名分のレシーバーを用意)
事前の申し込みは不要です

お問い合わせ:
第23回国際霊長類学会大会実行委員会・市民公開講座担当
〒606-8502
京都市左京区北白川追分町
京都大学大学院理学研究科生物科学専攻人類進化論研究室内
Tel & Fax: 075-753-4098
E-Mail:ips2010@jinrui.zool.kyoto-u.ac.jp
(メールアドレスの@は半角に直して下さい)

市民公開講座要旨

 現代の人間社会には、いじめや家庭内暴力、はては大規模な戦争にいたるまで、さまざまな暴力がはびこっています。 一方で人間以外の霊長類においても、種内での子殺しや集団間での殺し合いなどの事例が報告されています。 では人間に見られる暴力は、人間の持つどのような生物学的、文化的特質から生まれてきたのでしょうか。 それは人間以外の霊長類に見られる暴力とどのような共通点、相違点を持つのでしょうか。そして暴力を抑えて平和的共存を図るためには どうしたらよいのでしょうか。こうした問題をさまざまな学問分野を超え、とくにこれまで暴力の抑止力になってきた宗教分野を交えて 討論することは、欧米ではほとんど不可能とされてきました。 一方で日本霊長類学会は、こうした分野横断型のシンポジウムをこれまでも企画し、人間の攻撃性や平和への希求を人間以前の段階から 進化史的に読み解こうと試みてきました。その結果、人間以外の霊長類には、攻撃行動を抑制し暴力をエスカレートさせないための多様な機構が 備わっており、人間にもこの機構が根づいていることが明らかになりつつあります。 今回の公開講座ではこれらの成果を踏まえ、第23回国際霊長類学会大会が京都で開催されるのに合わせて、 暴力とその解決法について国際的な討論を企画いたしました。 この公開講座では、まず長年人間の暴力性の起源について研究してきたアメリカの霊長類研究者に基調講演していただきます。 その上で、現代の人間社会において生じている暴力について、人類学者や宗教学者の方にパネリストとしてご意見をたまわったのち、 各界を代表する数名の方々に、ディスカッサントとしてそれぞれの学問分野の立場から議論に参加していただきます。 このような過程を通して、人間のみに留まらず、人間以外の霊長類も含んだより広い立場から、暴力の起源について考察するとともに、 現代の人間が抱えている暴力に関わる問題の有効な解決法を探りたいと考えています。

講演者略歴

Richard Wrangham

ハーバード大学生物人類学部教授。オックスフォード大学大学院修了。霊長類行動生態学。 タンザニアのゴンベ、ウガンダのキバレでチンパンジーの行動生態学を研究し、霊長類の社会や行動の進化を幅広く考察するとともに、 人類の進化を霊長類学の視点から検討している。霊長類の保護にも活躍。Primate Societies (The University of Chicago Press)など 多くの編著があるが、邦訳されている著書に、『男の凶暴性はどこから来たか』(共著、三田出版会)、 『火の賜物―ヒトは料理で進化した』(NTT出版)がある。

市川光雄

京都大学名誉教授。京都大学大学院理学研究科修了。生態人類学、アフリカ地域研究。 中央アフリカの狩猟採集民と,農耕民の社会を対象とした人類学的・民族学的調査資料をもとに,多様な自然観や自然利用,およびそれらの共存関係や変容について考察するとともに、人類学的な立場から自然の保護やその持続的利用について検討している。著書に、『森の狩猟民―ムブティ・ピグミーの生活』(人文書院)、『生態人類学を学ぶ人のために』(共編著、世界思想社)、『森と人の共存世界』(共編著、京都大学出版会)など。

小原克博

同志社大学神学部教授。同志社大学大学院神学研究科修了。キリスト教思想、宗教倫理学。 先端医療、環境問題、性差別などをめぐる倫理的課題や、一神教に焦点を当てた文明論、戦争論に取り組んでいる。 著書に、『宗教のポリティクス―日本社会と一神教世界の邂逅』(晃洋書房)、『神のドラマトゥルギー――自然・宗教・歴史・身体を舞台として』(教文館)、『キリスト教と現代――終末思想の歴史的展開』(共著、世界思想社)など。

討論者略歴

梶田真章

法然院貫主。大阪外国語大学ドイツ語科卒。 法然院境内の環境を生かして「法然院森の教室」を主宰。境内に「共生き堂」(法然院森のセンター)を建て、環境学習を行う市民グループの活動を推進。市民とともに現代社会の問題に積極的に取り組んでいる。著書に『法然院』(淡交社)、『ありのまま~ていねいに暮らす、楽に生きる~』(リトルモア)など。

黒田末寿

滋賀県立大学人間文化学部教授。京都大学大学院理学研究科修了。霊長類学。人類学。 ニホンザルやピグミーチンパンジー(ボノボ)のフィールドワークを通して、人類社会の成立過程と人間の行動特性の理解を進める作業をおこなっている。著書に、『ピグミーチンパンジー:未知の類人猿』(以文社)、『人類進化再考』(以文社)など。

小長谷有紀

国立民族学博物館教授。京都大学大学院文学研究科修了。文化人類学、文化地理学。 モンゴル・中央アジアの遊牧文化のフィールドワークを通して、遊牧の社会、歴史、家族、育児、環境倫理や思想など幅広く考察している。著書に、『昔ばなしで親しむ環境倫理―エコロジーの心を育む読み聞かせ―』(くろしお出版)、『オーラルヒストリー―エジネーに生きる母たちの生涯―』(総合地球環境学研究所)、『家族のデザイン』(東信堂)など。

長谷川寿一

東京大学大学院総合文化研究科教授。東京大学大学院人文科学研究科修了。人間行動進化学、行動生態学。 霊長類や鳥類などの行動観察を通して、人間を含む動物の生活史戦略や配偶戦略、心の進化の解明を目指した研究をおこなっている。著書に、『進化と人間行動』(共著、東京大学出版会)、『動物の社会行動』(共編著、裳華房)、『心の進化:人間性の起源をもとめて』(共編著、岩波書店)など。