自由集会
自由集会1
ニホンザルにおける社会構造の個体群間変異と社会性の個体間変異: その遺伝的背景を探る
日時: 2016年7月15日(金) 12:30-14:45
場所: 自由集会会場1
霊長類の社会的形質に関しては、これまで近縁種間の変異が注目され、それが生息環境への適応で生じるのか系統的慣性で決まるのか、盛んに議論されてきた。一方、日本霊長類学の黎明期に、他個体に対する寛容性の点でニホンザル餌付け個体群間に大きな変異があることが指摘されていた。本自由集会は、ニホンザルの示す寛容性が、その属するマカカ属の種間変異に匹敵するほどの可塑性を持つことを明らかにし、その個体群間変異と性格関連遺伝子の個体群間変異の分布を比較することを通じて、寛容性の遺伝的背景の有無を明らかにすることを目的とする。さらに、その発展型として性格関連遺伝子の1個体群内の個体間変異に着目し、個体の遺伝子型と社会行動の関連性をみることを試みた。
話題提供
- ニホンザルの社会構造の個体群間変異(仮題) 中川尚史(京大・理)
- 餌付け群における寛容性の個体群間変異:給餌実験と協力行動実験から(仮題) 山田一憲(阪大・人間科学)
- 性格関連遺伝子の個体群間変異と群れの寛容性との関連(仮題) 村山美穂(京大・野生動物)
- 性格関連遺伝子の個体間変異と社会性の関連(仮題) 大西賢治(東大・総合文化/日本学術振興会)
責任者: 中川尚史(京都大学大学院理学研究科)、村山美穂(京都大学野生動物研究センター)
連絡先: nakagawa@jinrui.zool.kyoto-u.ac.jp
共催:日本学術振興会科研費基盤研究B(代表:中川尚史)、文部科学省科研費新学術領域研究「共感性の進化・神経基盤」(代表:長谷川寿一)
自由集会2
新たな鳥獣保護・管理法とニホンザル管理の将来
日時: 2016年7月15日(金) 12:25-14:40
場所: 自由集会会場2
1999年に鳥獣保護法が改正され、科学的・計画的な保護管理の枠組みとして特定鳥獣保護管理計画制度が創設されてから17 年が経過した。2014年、鳥獣保護法は、鳥獣保護管理法へと改正され、それに伴い、2015年、特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(ニホンザル編)も変更された。また、近年住宅集合地域へのニホンザルの出没が多くなったことをうけ、鳥獣保護管理法において麻酔銃の取り扱いについて改正が行われた。ニホンザルは、被害管理のデータの蓄積や管理体制の整備が進み、管理目標をある程度達成する状況が一部の地域で生まれている。しかしその反面、管理目標を達成できない自治体や西日本を中心に計画の策定を行わない自治体もある。この自由集会では、法律改正に伴いニホンザルの特定鳥獣保護・管理計画のガイドラインに示されている考え方や方法論について報告する。また、法律改正により、すでにシカやイノシシで導入されている指定管理鳥獣捕獲等事業制度および認定鳥獣捕獲等事業者制度について、近い将来ニホンザルが仮に選定された場合のメリット・デメリットについて整理し、今後のニホンザルの将来の管理方法について議論する予定でいる。
趣旨説明 半谷吾郎 (京都大学霊長類研究所)
特定鳥獣保護・管理計画作成のためのガイドライン(ニホンザル編)
滝口正明(一般財団法人 自然環境研究センター)
保護管理計画のための新たなモニタリング技術
清野紘典 (株式会社 野生動物保護管理事務所)
法律改正後の住宅集合地域における麻酔銃使用
森光由樹(兵庫県立大)
新たなガイドラインと次期計画の方向性
宮城県の管理計画 宇野壮春(合同会社 東北野生動物保護管理センター)
三重県の管理計画 山端直人(三重県農業研究所)
鹿児島県のニホンザルの現状と課題
塩谷克典(一般財団法人 鹿児島県環境技術協会)
指定管理鳥獣捕獲等事業制度および認定鳥獣捕獲等事業者制度について
滝口正明 (一般財団法人 自然環境研究センター)
コメンテーター 鈴木克哉 (NPO里地里山問題研究所)
総合討論 森光由樹(兵庫県立大)
責任者: 日本霊長類学会保全・福祉委員会 森光由樹(兵庫県立大学)、半谷吾郎(京都大学霊長類研究所)
連絡先: morimitsu@wmi-hyogo.jp
後援 鹿児島県
自由集会3
遊びの霊長類学の展望
日時: 2016年7月15日(金) 15:00-17:00
場所: 自由集会会場1
遊びはエソロジーの研究史上、その最初期から関心がもたれ、社会生物学的にも重要な研究課題とされてきた。また遊びは学際的研究テーマであり、心理学的研究などとも親和性が高いはずであるが、実験的コントロール、遊びの定義、仮説検証等の難しさが障害となるためか、これまで専門家による研究対象としては敬遠されてきた感がある。
しかし、たとえばカレントバイオロジー誌2015年1月号において「楽しみfunの生物学」という特集が組まれ、遊び行動の至近要因としての楽しいという感情の神経学的基盤を明らかにしようとする学際的研究の進捗が紹介されたように、近年、遊びは研究対象として注目を集めつつあるようだ。
本企画では、近接諸分野における遊びの研究の進展についてレビューをし(島田将喜)、霊長類学の各分野で活躍する研究者に、遊びを対象とした研究の取り組みや、対象とすると面白いと考えられる遊びの諸側面について話題提供をしていただく(チンパンジー:中村美知夫、ニホンザル:大西賢治)。また霊長類以外の哺乳類で遊びが多く観察される代表的動物としてのイヌの遊び行動についての最近の研究の進展について知見を整理する(薮田慎司)。そのうえで霊長類の遊びを研究対象とする際に考慮すべき困難、論点について情報を共有し、遊びの研究をいかに生産的なものとしてゆくかについて自由討論を行う。
「遊びはテーマとして面白そうだが、科学的研究ができるのかどうかわからない」と二の足を踏んでいる若手研究者の積極的な参加を促したい。
責任者: 島田将喜(帝京科学大学アニマルサイエンス学科)
連絡先: masakishimada@japan.email.ne.jp
自由集会4
房総半島のアカゲザル交雑対策の現状
日時: 2016年7月15日(金) 14:55-17:10
場所: 自由集会会場2
房総半島では輸入され放逐されたアカゲザルが野生化し、ニホンザルとの交雑が問題となってきた。半島南端に定着したアカゲザルの群れでは交雑が進行し、外来種個体群としてアカゲザル遺伝子の供給源となっている。半島中央部のニホンザル個体群でもニホンザルのメスが交雑個体を出産するという事態となっている。アカゲザルはニホンザルに最も近縁な種であり、和歌山県や青森県で発生したタイワンザルの例とくらべて、交雑の進んだ個体を形態や遺伝子で判定することが難しくなっている。
日本霊長類学会(以下「学会」)の保全・福祉委員会は、これまでも2012年度大会(椙山女学園大学)、2013年度大会(岡山理科大学)の自由集会でニホンザルと外来マカクの交雑問題を取り上げてきた。また対策に向けて、2006年度と2012年度に環境省および千葉県へ学会要望書を提出してきた。
アカゲザル個体群およびニホンザル個体群について、千葉県は2005年度から交雑対策を継続している。国は交雑対策を進めやすくするために、2005年度に施行した外来生物法を2013年度に改正し、タイワンザルとニホンザルの交雑種、アカゲザルとニホンザルの交雑種も特定外来生物に指定した。また、千葉県を支援するためこれまで3年におよぶ事業を実施し、現在交雑対策の考え方と交雑判定手法についてまとめを行っている。
さらに、房総半島には国の天然記念物「高宕山サル生息地」があり、近年その地域のサルでも交雑が確認され、対策が必要になっている。
今回の自由集会では、関係者に房総半島のアカゲザル交雑の現状と課題を整理して話題提供いただき、今後の対策の在り方につき討論したい。
- 交雑問題の概説
- 行政の対応
- 交雑モニタリングの現状と課題
- 天然記念物「高宕山サル生息地」における問題点
- 総合討論(課題と対応)
責任者: 日本霊長類学会保全・福祉委員会 川本芳(京都大学霊長類研究所)、白井啓(野生動物保護管理事務所)
連絡先: shirai@wmo.co.jp
自由集会5
化石哺乳類研究会: 新生代後半のアフリカ・アジアの哺乳動物相の変遷と交流
日時: 2016年7月15日(金) 17:15-20:00
場所: 自由集会会場1
国内には霊長類化石の発掘を主眼にした研究調査を行っている海外調査隊が幾つか存在し、日本霊長類学会でもその成果が毎年発表されてきた。化石発掘では、霊長類化石の収集だけではなく、その他の化石の収集、地質学的調査も行われ、ここから得られたデータは、各霊長類化石産出地の生物相の特徴の評価、古環境の復元、堆積環境の推定、時代的変化・地理的変異の中での各化石生物相の位置づけの検討などに用いられてきた。しかし、霊長類化石発掘という共通項をもちながらも、現状では、これらの化石産出地について、霊長類以外のデータも含めて異なる化石産地間や系統群間で統合的に論じる機会は多くはない。
本自由集会では、新第三紀を中心とした東アフリカ、東南アジア、中国の化石を扱う研究者が話題提供を行い、総合討論では霊長類や他の哺乳類の間での進化パターンの関連や各地域での哺乳動物相の進化について検討することを目指す。この企画が異なる系統群や調査で得られた情報の交換の機会になればと考えていますので、来場者からのコメントも歓迎します。
講演
- アフリカとアジアをつなぐ新第三紀ウシ類の進化 西岡佑一郎(早稲田大学高等研究所)
- ゾウ科の起源とアフリカ・アジアの後期中新世長鼻類の進化 三枝春生(兵庫県立人と自然の博物館)
- アフリカの新第三紀齧歯類について 田邉佳紀(鳥取県立博物館)
- ミャンマー新第三紀の化石食肉類相の変遷と古生物地理学的特徴 江木直子(京都大学霊長類研究所)・高井正成(京都大学霊長類研究所)
- エチオピア、チョローラの900-700万年前の哺乳動物相から見えてきたこと 諏訪元(東京大学総合研究博物館)
- 中国・広西のギガントピテクスを中心とした更新世霊長類化石相 河野礼子(国立科学博物館人類研究部)・高井正成(京都大学霊長類研究所)
総合討論
責任者: 江木直子(京都大学霊長類研究所)、仲谷英夫(鹿児島大学理学部)
連絡先: egi.naoko.6z@kyoto-u.ac.jp
自由集会6
人類を含む霊長類の重層社会の形成をめぐって
日時: 2016年7月15日(金) 17:25-20:05
場所: 自由集会会場2
人類は群居性動物である霊長類の一員として、集団で生活する方途をさまざまに進化させてきた。現代のわれわれは、家族、仲間、地域社会、職業集団、国家、国際社会等、重層的で複雑に絡み合い、しばしば巨大な集団の中に生きている。本集会では、人類を含む霊長類の事例に焦点を絞り、人類と近縁の大型類人猿の社会に明瞭には認められない重層社会なる社会形態の形成について議論したい。話題提供には、松田一希「コロブス類の重層社会:ヒヒ類と比較して」、杉山祐子「(仮)姉妹になるか母になるか:焼畑農耕民の離合集散と社会の重層化を考える」、寺嶋秀明「(仮)ヒトは誰と一緒にいたいのか?:狩猟採集民の生態と社会から考える」、中川尚史「(仮)初期人類の重層社会についての新説:霊長類学の立場から」を予定している。
本集会を企画した背景には「人類社会の進化史的基盤研究」と題する共同研究(於東京外国語大AA研)がある。霊長類社会/生態学、生態人類学、社会文化人類学の3分野を中心に、「集団」「制度」「他者」「生存・環境・極限」とテーマを展開しながら議論を続けてきた。その一貫した目的のひとつは、人類の社会性Socialityの進化的な解明にある。社会性とは、他者(他個体)と相互に関係しつつ同所的に存在する能力、つまり集団をなして生きる能力であり、集団の中で複数個体の共存を保証する能力のことである。より複雑な集団の生成には、諸制度(規範やルール、コンヴェンション等を含む)の生成も必要であったはずだ。重層社会もまた、そうした複雑な集団のありかたと言えよう。初期人類はどのような集団を形成していたのだろうか。それはどのような能力や傾向の獲得と関連していたのか。生息環境とはどのような関係にあったのだろうか。初期人類の社会を見据えつつ、現生の人類以外の霊長類と現生の人類の重層社会の両面から、家族の起原や社会性の進化についても議論したい。
責任者: 河合香吏(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
連絡先: kkawai@aa.tufs.ac.jp