日本霊長類学会

自然史学会連合 講演会 体験教室に学会からブース出展(2019/1/12掲載)

平成30年度 自然史学会連合 講演会 体験教室
日本霊長類学会 豪雪地域のニホンザルは洞窟と温泉を使って冬を越す


平成30年10月28日に平成30年度自然史学会連合講演会「海と山岳のきときと自然史研究」が富山市科学博物館にて開催され、同時に自然史学会連合加盟学協会による体験教室が行われた。日本霊長類学会では、体験教室を富山大学理学部生物圏環境科学科の柏木が担当し、「豪雪地域のニホンザルは洞窟と温泉を使って冬を越す」というタイトルで出展した。
その体験教室の概要について、次年度以降の担当者への参考という意味も含めて簡単に報告する。

体験教室の様子

次の2つの内容『ウンコの持ち主を探し出せ』『ニホンザルのホネを観察しよう』で体験教室を実施した。なお、保育園年長児から小学校低学年の子供をターゲットに設定し、保育園年長児が立ったままで上から見下ろし、標本に触れる高さに標本を配置した。また、全ての解説の漢字に振り仮名を振り、平仮名ないしカタカナを読める保育園年長児の子供が、両親の助け無しに文章を読めるようにした。体験教室ブースの全体配置を写真1に示す。


写真1 体験教室ブースの様子。手前左側に『ホネ』、右側に『ウンコ』を、保育園児から小学校低学年の子供たちが、立ったままで楽しめる高さに配置した。

子供連れの家族は、『ウンコ』と『ホネ』に気づき、「わぁー、ホネだー、本物ー?」と言いながらやってくる(写真2)。その声が聞こえてくると、「本物だよー、触り倒してねー、でも優しくねー」といいながら、『ホネ』のところに移動し、しゃがんで子供目線で一緒にホネを触って、「このホネはここだよー」と実際に自分か子供の体にホネを当てて、楽しみながら体感してもらう。実は、大人もホネには興味津々で、親御さんに頭骨(頭蓋骨と下顎骨)を渡して、子供の手を頭骨で挟んでもらう。


写真2  『ニホンザルのホネを観察しよう』。当初は、きちんと並べていたが、子供たちは思い思いにホネを触り、部位ごとにホネを集めたり、いい意味でいろいろと触り倒して遊んでくれた。

『ホネ』でワイワイやっていると、それにつられてか、他のご家族が隣の『ウンコ』にやってくるので、ちょっと移動して次は『ウンコ』体験を楽しんでもらう(写真3、4)。先ずは、「ウンコ好きな子、手をあげてー」と言って、場を和ませた?後に、「おじさんはウンコ好きだよー」と言って、体験に移っていく。『ウンコ』は、ニホンザルの秋と冬の糞を含む、11個(哺乳類10種類)の樹脂埋包標本で、動物写真パネルと樹脂埋包標本をごっちゃにしておいて、どの哺乳類がどのウンコを排泄したのか、クイズで当ててもらう。ただ、これは少々、難しいようで、途中からはヒントを出しつつ、答えてもらう方式に変えていった。ニホンザルの秋と冬のウンコが、全く外形が違っているのは、食性の違いがウンコの形に現れる例として、かなり興味を引いたようである。



写真3 『ウンコの持ち主を探し出せ』。動物写真パネルと樹脂埋包標本を並べて、子供たちに『ウンコ』の排泄主当てクイズをしてもらった。意外と、大人も楽しんでいたようだ。

この二つの体験をしてもらって後、資料 <背面のポスターの縮小版・ウンコ解答解説・黒部峡谷鉄道チラシ、の3点セット> を親御さんに渡すとともに、子供には『とやま動物カード』(全12種類)から好きなのを2枚選んでもらった。個人的には、ニホンザルの洞窟利用の写真がお勧めだったが、一番人気は“雪原のニホンザルの足跡”と“雪の中のニホンザル”であった。今回、大人が座って丁度の机の上に『とやま動物カード』を並べたが、子供たちが少し選びにくそうだったので、結果的にこちらも子供目線の高さに並べるべきであった。
最初の5組程度には、資料を渡しそびれたこともあり、とにかく体験してもらったご家族には、その後、積極的に資料を渡していった。その結果、55組のご家族に資料を配布したので、配布忘れのご家族等も含めると、60組以上のご家族が『ウンコ』と『ホネ』を体験したことになる。
今回、黒部峡谷でのニホンザルの洞窟利用の研究を、A0サイズのポスターで展示した(写真4)。 “ニホンザルの洞窟利用”を富山県民に広く深く宣伝したいと意気込んでいたものの、来られるご家族の目線の先は『ウンコ』と『ホネ』に向き、ポスターに目線が向くことはほとんどなかった。もしかしたら、この体験教室ブースが、日本霊長類学会のブースだとの認識も、十分にされなかったのかもしれない。また、ニホンザルの洞窟利用の写真を、PC画面上にスライドショーで流していた(写真5)ものの、こちらも見ている方は皆無であった。また、サル団子のサルと一緒に写真を撮ろう!、というパネル(写真6)も準備したものの、高さが低すぎたせいもあって、また、あまりにマニアック過ぎたのか、誰一人として一緒に写真を撮ろうという子供は現れなかった。設置などで工夫が必要だと感じた。


写真4 体験教室ブース背面に掲示したポスター。ブースを訪問されるご家族の目線は、『ウンコ』と『ホネ』に向いてしまい、質問してきた大人数名に説明した程度で、あまり来場者の目には入らなかったかもしれない。なお、黒部峡谷鉄道から沿線のマスコット、でんちゃーとくろべえのイラストの使用を許可いただいた。記して感謝します。


写真5 ニホンザルの洞窟利用の写真のスライドショー。大人向けにPC上に映写したが、ほとんど注意を払われることはなかった。


写真6 サル団子のサルと一緒に写真を撮ろう!パネル。観光地にあるものをイメージして作成・設置したものの、やはり顔の部分をくり抜くなりの工夫をしないと、子供たちの興味を引き付けられないと感じた。

準備ほか

1. 『ニホンザルのホネを観察しよう』
京都大学霊長類研究所の西村剛氏から、雄と雌の計2体の全身骨格標本をお借りし、両方を見比べた結果、雄の全身骨格を体験教室に用いた。
子供の目線に合わせ、高さ42 cmのベンチ(座面は幅42 cm×長さ114 cm)に、黒色のフェルト生地を張った合板(幅60 cm×長さ90 cm×厚さ1.5 cm)を置き、その上にニホンザル雄の骨格標本を並べた。四肢骨の先端(手根骨と足根骨から先の骨)、肋骨、胸骨などは、紛失の恐れがあり並べなかった。展示に際して、先ずはそれぞれの骨を部位ごとにきちんと並べ、「やさしくさわってね」「もとにもどしてね」「さわってみよう」のボードを一緒に並置した。また、部位の名称のカードも対応する骨の横に並べた。
なお、当然、元の場所に戻すはずはなく、その場その場で臨機応変に対応した。破損と紛失が気がかりだったものの、親御さんもお子さんをきちんと見てくれて、危なっかしいことは特に無く、ただ無事に済んだことは正直ほっとした。

2. 『ウンコの持ち主を探し出せ』
糞試料は、富山市ファミリーパークの飼育員の方々から提供していただいた。全12種の内容は、タヌキ、アナグマ、ハクビシン、キツネ、イタチ、テン、ニホンザル、ワオキツネザル、ムササビ、ニホンジカ、カモシカ、ノウサギで、今回、イタチとテンを除く10種の糞に加え、黒部峡谷で採集済みのニホンザルの冬季糞を加え、11個の糞の樹脂埋包試料を作成した。なお、樹脂埋包試料の作成は初めての経験で、気泡や割れが発生するなど、出来栄えは十分とは言えないものの、こういったイベントでの使用では十分に耐えうるものであることを、子供たちやご両親の反応から見て取れた。
依頼から作成の経緯は以下のとおりである。9月13日に富山市ファミリーパークの担当者に、糞の提供依頼をメールにて行い、糞の取扱い等について打ち合わせを行った後、9月21日に提供依頼の書類を提出した。10月5~8日にかけて採集していただき、10月9日に糞試料を受け取り、凍結乾燥した試料を用いて樹脂埋包試料を作成した。
糞試料を収集いただいた、富山市ファミリーパークの関係者の方々に、記して深く感謝します。

3. 『とやま動物カード』
ニホンザル7種類に加え、イノシシとニホンジカ、テンの糞、ツキノワグマ、カモシカ、ハクビシンと、計12枚のカードを10枚ずつ準備した(写真7)。ニホンザルが雪山の樹上で寒さに耐える写真を除き、全て自前の写真から選び出した。また、全て黒部峡谷で撮影した写真を用いた。なお、中川尚史氏(京都大学)と下岡ゆき子氏(帝京科学大学)に、情報共有のために体験教室終了後に見本を送付した。カードは、キャノン写真用紙・光沢ゴールドのL版を使用し、自前のプリンターで印刷した。


写真7 『とやま動物カード』。

4. 『ポスターおよび種々の掲示板』
全ての説明の漢字に振り仮名を付し、漢字学習前の子供たちでも、自力で文章を読めるようにした。以前、とある企画展を担当した際に、親御さんに言われた一言で、「うちの子供は漢字を抜かして平仮名だけ読んでいます、できれば常設展にも振り仮名を付ってください」、というものがあった。どういうことかというと、例えば、
「また、全て黒部峡谷の写真である。先述の通り、こちらも子供目線に並べると、もう少し、子供たちは選びやすかったなと、反省点である。」
という文章は、漢字を学習前の子供が読むと
「またてのである。のり、こちらもにべると、もうし、たちはびやすかったなと、である。」
となる。
一般向け、とくに子供連れのご家族を対象とする体験教室や展示の際には、面倒ではあるものの、漢字には振り仮名をふるのが、親切かつ優しさであり、自然科学への興味を子供たちに持ってもらう第一歩かと感じている。

終わりに

60組のご家族で、11時から16時までの5時間だったので、単純計算で5分に1組のご家族に対応したことになる。実際、コンスタントにご家族がやってきて、5分を超えて誰もこなかったことは、無かったなと感じている。最後に、霊長類学で浅学かつ新参者の私を、この自然史学会連合の体験教室の担当に選んでいただき、私自身が素晴らしい体験を得る機会を与えていただいた、日本霊長類学会の理事会の方々に心から感謝します。

柏木健司(富山大学理学部生物圏環境科学科)
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