日本霊長類学会

<自然史学会連合>「博物館資料保全のための声明−ブラジル国立博物館の大惨事を繰り返さないために−」 (2018年11月28日掲載)

2018年9月2日に起きたブラジル国立博物館の火災を受け、日本霊長類学会も加盟している自然史学会連合が声明文を発表しました。

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博物館資料保全のための声明
−ブラジル国立博物館の大惨事を繰り返さないために−

日本学術会議協力学術研究団体 自然史学会連合
代表 大路樹生

2018年9月2日に起きた、ブラジル国立博物館の火災とそれにより貴重なコレクションが失われたことは、痛惜の念に堪えません。同館の一刻も早い復興を祈念いたします。ブラジル国立博物館は、南アメリカを代表する自然史博物館であり、約1万2000年前のものと見られている南米大陸最古のヒト頭蓋骨や、ブラジル最大の恐竜の化石など、2000万点以上の標本および関連資料を収蔵していました。こうした人類共通の宝の多くが、今回の火災により失われてしまいました。

自然史科学では新たな理論や分析方法が現れるたびに、過去に蒐集された標本資料が再調査され、その結果は学問の進歩に大きく貢献してきました。博物館に収蔵されている標本資料は、過去の研究の証拠としてだけではなく、未来の研究に対しても多大な貢献が期待できる資産です。今回の多くの標本資料の焼失は、未来の学問発展を損なうという償いきれない過失を犯したと考えねばなりません。

今、我々にできることは、こうした過失を繰り返さないために、標本資料の保管状況を精査し、危険を取り除きながら安全な保管事業をすすめることです。ブラジル国立博物館の関係者は予算の削減や建物の老朽化をかねてから懸念していたとのことです。日本の博物館でも予算削減や建物の老朽化による保管環境の悪化が懸念されます。火災や地震への対策はもちろん、平常時の温湿度管理や虫害対策も欠かすことはできません。過去には少なからぬ数の博物館で虫害やカビ害によって貴重なコレクションを失った例が知られています。地震や水害等の災害が頻発する日本では、貴重な財産のための十分な対策が必須であることは言を俟たないと思います。先の東日本大震災で破損した博物館資料は多数に上り、その修復作業に多くの専門家やボランティアが協力しました。日本の博物館総合調査報告書:平成29年3月」によれば、地震対策を行っている博物館は34%、収蔵庫に空調設備があると回答した博物館は52%に留まっています。ブラジル国立博物館での悲劇的な損失を繰り返さないために、国内も含めたすべての博物館にたいして、標本資料を安全に保管するための予算と人材を含んだ万全の体制作りの必要性を強くアピールいたします。

様々な自然災害が多発する日本国内においては、災害の被害を最小限にとどめる取り組みに加えて、被害を受けた標本資料の救済や被害を免れた標本資料の修復が重要です。こうした取り組みにおいては、博物館同士の連携と博物館と専門家との連携が重要な役割を果たします。我々連合としましても、そのような連携活動に積極的に関わっていく所存です。

2018年11月26日
自然史学会連合


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*自然史学会連合HPの声明文はこちら
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